■テーマ 声による音色旋律の試み ~「かえるのうた」を題材に~
■実施日 2018年10月31日
■担当 山口賢治
■対象 中学生以上
■ねらい
通常、旋律とはリズムと音程の変化とその組合せによるが、これに音色の要素を加え、旋律に対する概念を拡張した方法論である。アルノルト・シェーンベルク(Arnold Schönberg, 1874年9月13日 - 1951年7月13日 オーストリアの作曲家・指揮者・教育者。 調性音楽を脱し無調に入り、十二音技法を創始したことで知られる。)提唱した概念であり、彼や同じ新ウィーン学派のアントン・(フォン・)ヴェーベルン(Anton (von) Webern 1883年12月3日 - 1945年9月15日)らによって実践され、十二音技法との組み合わせにより、後のセリー音楽へと繋がった。 今回は、誰でも知っている童謡「かえるのうた」を題材に声を使って音色旋律による音楽づくりを試みた。
■プログラム
① 「かえるのうた」の練習の練習を行った。オーミングアップであり、歌を専攻する参加者がいれば、発声の指導をここでしてもらうことも考えられた(次回の課題)。
② 輪唱を試みた。 2小節づつ、 1小節づつ、2拍づつ、1拍づつのズレの輪唱を行った。ここをアイスブレイクとして、参加者同士が打ち解けてもらう箇所とすることが想定される。
③ 音色旋律の概念の説明した。
鑑賞1 シェーンベルク 作曲「5つの管弦楽曲」第3楽章 同一和音を異なる楽器編成の間で継続して受け渡す。同じ和音でも音色が変化し、響きの質感に変化を与える効果を確認した。
鑑賞2 ヴェーベルン編曲「音楽の捧げもの」より「6声のリチェルカーレ」 オーケストラ版
YouTube: J.S. Bach/A. Webern: Ricercar a 6 ∙ hr-Sinfonieorchester ∙ Antonello Manacorda
旋律が様々な楽器に受け渡されながら奏でられるところを聴いてもらい、旋律に音色の変化とその組み合わせの要素が組込まれていることを確認してもらった。
④ ヴェーベルン編曲版を参考に「かえるのうた」を題材に旋律の受け渡しを試みた。下記の譜例メモが示すように歌詞の区切り方を変えて、様々な旋律の受け渡しを行った。譜例メモの中に記載がある A→B→C・・・のアルファベット記号順に歌い手が変わっていくことにより、音色(声色)が変化しながら旋律が進行して行く様子を実感してもらった。
譜例メモ1
譜例メモ2
譜例メモ3
譜例メモ4
⑤ グループに分かれ、各グループごとに音色構成を自分達で組み立てて、発表してもらった。
作成楽譜メモ
YouTube: 声による音色旋律の試み ~「かえるのうた」を題材に~
⑥ 音色旋律での輪唱も試みたが、これは複雑になってしまい、今回はあまり上手くいかなかった。
■まとめ
誰でも知っている「かえるのうた」を題材としたので、導入はしやすかった。声を積極的に出してくれる人を対象とすれば、有効な方法論だと感じた。声を出すことに躊躇する人も一部にいることも考えられるので、その場合にはふたりで一緒に声を出すなどの工夫と配慮も行った。 歌の実習の場でこの方法論によるワークショップを再び試みてみたい。さらに声色の変化がポイントとなるので、様々な出身の歌い手(クラッシック、邦楽、ポップス)が混ざった参加者構成であれば、発声や歌い方の特徴が明確となり、音色旋律の効果がより顕著に表出すると思われ、興味深い結果がもたらされると思われる。またハーモニカ、鍵盤ハーモニカ、リコーダーなど旋律楽器を用いる応用も可能であるので、次の課題としたい。
■考察
近現代の楽曲においては本テーマで取り上げた音色旋律の他に、様々な打楽器の導入や電子音楽の導入、発展など音色に対する重要性が増してきていると思われる。日本の代表的な伝統楽器のひとつである尺八においては、音色と旋律との関係が密接につながっており、不可分な関係性にある。特に尺八古典本曲においてその特性が顕著に表れており、演奏者にとっても奏でられる旋律と音色の連なりのコントロール法や美意識の持ち方は大きな研究課題である。戦後、当時の作曲技法の最先端を知り、実践していた諸井誠や廣瀬量平らが尺八に注目し作曲し始めたのも、こうした音色に対する認識の変化や高まりと関係があるのではないかと推測できる。本ワークショッププログラムを通じて、こうした音楽における音色に対する姿勢や文化面からの考察に立ち入るきっかけとして、日本ぼ伝統音楽に踏み込んでいく方法も考えられる。