「呼び掛けと応答、循環」要素による音楽づくり2 〜尺八を使って〜
担当:山口賢治 実施日:2015年10月14日
概要:前回(10月7日)のワークショップ
「呼び掛けと応答、循環」要素による音楽づくり 〜声、手拍子、トーンチャイムを使って〜
について、同様の方法論に基づき、楽器を用いて音楽づくりを行った。この授業では尺八を用いた。但し、通常では尺八の場合、楽器に習熟していないと発音が困難である。そこで、下記の写真に示すリコーダーのヘッド形状をしたアダプターを装着した練習用尺八を用意した。これにより誰でも音を容易に出すことが可能となる。また尺八を用いるメリットとして、尺八の基礎音D、F、G、A、C(一尺八寸)は音階上に半音を含まないため、ランダムに音を配置しても、偶発的に音楽的な旋律線や和音が得らやすい。
実施内容
音楽づくりの素材として、前回の基本テーマを変形して
【基本テーマ】
呼び掛け「○○ちゃん、遊っびましょ。」→応答「あとで、」→ブリッジ 「尺八吹奏」
として、これを発展させて様々な音楽づくりを試みた。
YouTube: 「呼びかけ、応答、循環」要素による音楽づくり2
以下に動画の説明をする。
① 円陣を組み、基本的テーマを受け渡す。ブリッジ部分は全員でC音を吹く[0:00~]
② ブリッジ部分の吹く音程を各自任意に選ぶ。吹くたびに音程を変えている。和音の構成音(D、F、G、A、C)は変わらないが、音の重なり方が毎回ランダムに変化するので、微妙な響きの違いを聞くことができる。[0:25〜]
③ ブリッジ部分の尺八発音を常に3名とし、順番に音を重ねる。各人は出す音程を予め定めてあり、自分が吹く番が回ってきたら、定められた音をロングトーンで吹く。これは同じ音程が2名以上で重ならないようにし、常に3和音の響きを発生させるための工夫がしてある。[1:08〜]
④ ③のロングトーンをトリルにする。[1:48〜]
⑤ ④の呼び掛けと応答の部分を声でなく、尺八に置き換える。[2:20〜]
⑥ Aが呼び掛けのテーマを吹きながらBに近づく。Bはそれを受けて応答のテーマをAに向かって演奏する。次にAとBが任意の音程でブリッジを演奏する。さらに続けてBは呼び掛けのテーマを吹きながらCに近づく。Cはそれを受けて応答のテーマをBに向かって演奏し、BとCでブリッジを演奏。これを繰り返す。[2:57〜]
⑦ ⑥を2組同時進行で行う。ひとりの人Eが二人から同時に呼びかけられてしまったら、Eは2回誰かに呼び掛け演奏を行う。これにより2組同時進行に戻すことができる。[3:41〜]
⑧ ⑦を基音が異なる尺八で行う。ここではD、Es、Eの3種類の尺八が混在している。[5:03〜]
⑨ ⑧の場合、音の重なりが複雑になりすぎたので、メトロノームに合わせて演奏している。[7:28〜]
まとめ:楽器を使った一例として尺八を用いたが、鍵盤ハーモニカでもまったく同様の試みが可能である。何故なら鍵盤ハーモニカの黒鍵のみを使用すれば、その音の配列は一尺七寸管の尺八の基礎音と一致する。一尺七寸管はあまり普及していない長さの楽器なので、数多く揃えることは困難であるが、リーダーやサポーターが一尺七寸管の尺八、参加者が鍵盤ハーモニカの組み合わせは可能である。機会があれば、この組み合わせも実施してみたい。
その他の楽器でもこの方法論の応用の可能性はある。但し、この方法論を活用する上での注意点は、使う音の事前設定にある。各自がランダムに音程を選択しても全体として音楽の形になるように音や演奏法の選択枠を計算して設定することが必要である。尺八を用いる場合は、この点で音や演奏法の選択枠の設定が容易にできることにある。
この日の授業には外部の人の参加が2名いた。一人は本学出身者でかつて在学中に邦楽ワークショップを受講していた経験者、もう一人はその人の連れで楽器は何もやっていない人。普段の授業では音楽を専門にする学生ばかりを相手にしているので、これは特殊な状況といえる。今回は一人だけだったが音楽的訓練をほとんど受けていない人が加わって、一緒に受講してくれる貴重な機会となった。音楽にあまり習熟していない人がどのような反応を示すのか、どの程度理解してくれるのか、ワークショップに加わって一緒に楽しんでもらうことができるのかなどについて知ることができた。最初は戸惑いながらも、笑顔を覗かせながら最後まで受講してくれたので、成果はあったと判断している。