2012年6月25日 (月)

「行動の制限」(縛り)による音楽づくり

2012年6月20日に行われた授業の様子をご報告いたします。

今回は、邦楽ワークショップ2年目の音楽音響デザインコース4年生のKくんによる授業でした。
Kくんは以前から邦楽ワークショップに強い関心を示しており、音楽づくりでは毎回さまざまなアイデアで私達を驚かせている、才能あふれる学生さんです。今回の授業も、みんなで実験をしながら授業を進め、学生さんからも授業中にアイデアを提供してもらうという、今までになかった授業形態をとり、私達を大いに驚かせてくれました。

授業担当:中香里・記

以下、Kくんによる授業報告書です。

☆授業タイトル:行動の制限(縛り)による音楽作り

☆実施日:2012年6月20日

☆実施対象:大学生8名

☆使用楽器:箏(平調子)・三味線(本調子)・尺八・小鼓

☆授業の目的:曲作りにおいてアイディアを生み出す方法の一つとしての「行動の制限」(縛り)による音楽作りをテーマにワークショップを行いました。

☆アイスブレイク
1、まず皆さんで「何の制限もなく」音を出してもらう
→身体を叩いたり、声を出してみたり、身の回りにあるものから音を出したり、中には椅子を投げ付ける方(山口先生)もいました。このように「無制限」から音楽を作ろうとした結果、とても無秩序で混沌とした演奏になりました。
2、手拍子だけで自由に音を出してもらう
→手拍子だけ、という条件を設けることによって出せる音色が制限されました。無拍と有拍が混ざった、混沌としたリズムによる音が生まれました。
3、手拍子で一人ずつ順番に自由な4拍のリズムを重ねていく
→先程のものを有拍のリズムに限定する事により、一定のテンポ感で様々なリズムが混じり合った結果が得られました。
4、手拍子で今度は4拍を回していく ただし、必ず全て4分音符で叩くこと
→すごくつまらないことをやらせているように見えますが、山口先生だけはこの中に「強弱の自由」がある事に気付いていました。
5、もう一度上と同じ内容を行うが、「強弱」に関しての自由があることを強調してから行う
→この指示をしただけでつまらなかった手拍子回しがとても面白くなりました!それぞれの方が音の強弱を変えるポイントを工夫していて聴いていてとても面白かったです。
6、上の流れを声でもやってみる
→今回は声で、順番に「いち、に、さん、し」と言ってもらって回しました。自分は声になると音程が自由になる点に着目してこれを行ったのですが、言葉の「言い方」を変える方がいてとても驚きました。同じ言葉でもニュアンスが変わるだけで声による音の印象が全く変わるということに気づかされました。
・予定には無かったのですが、上記の流れをやってみた所、声で「喜怒哀楽」を表現してみてもいいのではないか、という意見があったので「いち、に、さん、し」を喜→怒→哀→楽の順番で回してもらった
→皆さんの喜怒哀楽の演技はとても面白く、さらにこれによって喜怒哀楽それぞれの特色が掴めました。


YouTube: 2012年6月20日アイスブレイク①


YouTube: 2012年6月20日アイスブレイク②

☆ワークショップ
1、まずは楽器を出してもらう(箏、三味線、尺八どれでも)
→箏を出す方が多かったです。理由としては、邦楽器専門の方を除くと「爪で弾くだけで直感的に音が出せる」という点で箏が優れていたからだと指摘されました。
2、調弦などが終わったら様々な「縛り」を加えて、同時に演奏してもらったり重ねたり回したりしてもらう
・全員同じ音程の音だけを使って演奏
→比較的出しやすい「レ」の音で縛った結果、様々なオクターブ、音色のレの音がかき鳴らされましたが、音が同じでもごちゃごちゃしていて聴いていられない印象でした。
・上記の演奏の反省より、耳を傾けて静かに演奏
→すると先程より美しく聴こえました。特殊奏法を使う方もおり、際立ってそれが聴こえました。演奏が良くなった理由を皆さんに聞いてみた所、「耳を傾ける事によって自分の演奏ではなくみんなの演奏という意識が芽生えた」という意見がとても印象深かったです。
・リズムを縛って演奏
→音はなんでもいいので、と4分音符(休みもなし)で全員同時に演奏してもらった所、聴こえ方は悪くなかったものの、リズムが単調なため「面白みに欠ける上に演奏がつらい」という意見がありました。
・音程とリズムを縛って演奏
→レの音と4分音符という非情とも言える縛りで全員同時に演奏してもらった所、強弱の要素が残っているとは言え全員同時にバラバラな音の強さで鳴らしていて強弱が全く際立たなかったのでこれ以上つまらない演奏はないんじゃないかと言っていいほどつまらない結果が得られました。
・上記の演奏の反省より、全員同時ではなく、一人ずつ回して演奏
→16拍で回してもらいました。すると強弱や特殊奏法がちゃんと伝わり、音程とリズムを固定していても、それぞれが面白い演奏になっていました。
・意見があったのでさらに「喜怒哀楽」という縛りを加えて上記の演奏をしてもらった
→音の強弱、音量の時間的変化(アタック、リリースなど)、音色感など、それぞれの感情ごとに特徴が出ていて面白かったです。これを板書で纏めてみようとしましたが、テーマから少し脱線する事だったので時間が若干押してしまいました。

☆音楽作り
・2グループで分かれて何らかの「縛り」を考えて、行動を制限する事によって生まれるアイディアを生かした音楽作りをしてもらう
→まず10分程度何をするか考えてもらい、演奏をしてもらってから、どのような縛りを演奏に加えたかそれぞれ尋ねました。その後、それぞれのグループに縛りを加えた結果出来た事、出来なかったことを尋ねました。演奏は両方のグループ共にとても音楽的で面白い印象を受けました。
・縛りによって出来たこと
→絶え間なく演奏を続ける事が出来る、統一感が出る、繰り返す事によりトランス状態になれる、喜怒哀楽という縛りによって喜怒哀楽の表現が出来た
・出来なかったこと
→要素を統一する事で沢山の要素が入り混じった演奏が出来なくなった、演奏がつらかった


YouTube: 行動の制限(縛り)による音楽づくり


YouTube: 行動の制限(縛り)による音楽づくり②

☆まとめ
アイディアはそう簡単に思いつくものではないので、手段の一つとしてこういった方法もあるということを提示して今後の音楽作りに生かしてもらう、という事を目的にこのワークショップを行いましたが、最後に「目の見えない人が耳に敏感になるように、いくつかの要素を縛ってみる事で見落としがちな要素に気付く」といったような説明をしたら納得してもらえました。特に、音楽において重要な音程とリズムが縛られた時、ダイナミクスや、特殊奏法によって生まれる音色に着目してもらえた事がこのワークショップ一番の収穫でした。
反省すべき点は、実験的なワークショップだったためスケジュールをはっきり決めなかった事により話が脱線してしまって時間が押してしまった事でしたが、「流れを完全に決めてしまってワークショップしている時よりも、皆で考えて授業をやっている感じがあって面白かった」という感想も頂きました。やはり自分の授業を進めてゆく力不足だったのだと反省しています。ですが結果的に伝えたい事が伝わったのでこのワークショップの意義は大きなものだったと思います。

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