11月21日の邦楽ワークショップは担当講師の山口賢治が行いました。
■テーマ: 箏を使ったトーンクラスタによる音楽づくり
■実施日:11月21日
■実施者:山口賢治
■楽器:箏+その他
■目的:現代音楽の重要な作曲技法のひとつであるトーンクラスタによる音楽づくりを試みました。トーンクラスタとは半音程や更に狭い微分音程の積み重ねによる、ある一定の音域の幅を有する密集音群を言います。1960年前後にペンデレツキやリゲティによる作曲家らがこの技法を全面的に活用して作品を書いています。箏は柱の位置によって連続的に自由に音程をつくることが可能であります。この箏の特性を利用して容易に密集音群をつくることができます。(写真1)
これらの仕掛けでつくられる音楽には、明確な旋律、拍節的な律動、和声学的な意味での和音の要素が基本的には現れません。音楽づくりを通じて”トーンクラスタ”の概念や音群ユニットの扱い方を体験し、音楽鑑賞の幅を広げることが狙いでした。
■想定実施対象
音楽系クラブ活動に所属する者や音楽愛好家等、一定の音楽的な知識や経験を有する人たちを想定しました。必ずしも箏の基本的な演奏技術を習得していない人でも演奏に参加できます。参加人数は少なくとも数名以上が必要で、人数が多ければ効果的です。
■実施スケジュール
① トーンクラスタの説明
② 作品例の鑑賞
「広島の犠牲にささげる哀歌」ペンデレツキ 作曲
「アトモスフェール」リゲティ 作曲
「累ー5×4箏群のためにー」池辺晋一郎 作曲
③ 箏を使ってトーンクラスタによる演奏試演
柱を互いに接するように並べた高音群、中音群、低音群の3群に箏を分けました。音はグリッサンドによって音響をつくり、順序と強さを下記のワークシートに従って音を出してもらいました。それぞれの群ごとの音の質感や強弱とその組み合せによってできる音空間を演奏しながら聴いてもらい感覚をつかんでもらいました。(写真2)
④ A、Bの2グループに分かれてトーンクラスタによる音楽づくりと発表を行いました。グループごとに話合いながらワークシートに各演奏セクションにおける強弱、音高、奏法、ニュアンス等を書き込み、全体としての形式も考慮して演奏のための設計図を作成し、それに従い演奏してもらいました。(写真3)
⑤ ④でつくったワークシートを元にしてさらにAグループはトーンチャイム、Bグループは三味線を加えて再度演奏発表してもらいました。三味線は箏がつくる音響に合うようにD-As-Dの調弦を選びました。これは三木稔 作曲 三味線独奏曲「奔手」で用いられる特殊な調絃です。
■まとめ
トーンクラスタによる音楽は一般的な音楽の要素である旋律、律動、和声による組み立てに寄らないので、その他の音楽的要素について意識し、具体的に操作することが要求される課題でした。箏のグリッサンドや手で叩く奏法などは小学生低学年でもできますが、えてして散漫な一定の音響の持続に留まる事態が起こります。これを避けるために、どのようにすれば音響から音楽として成立させることができるのかについて音楽的な知識や考察に基づく応用力が必要となります。例えば今回AグループではGPを挿入することで区切りをつくり、音響と静寂の対立を持って形式感を生み出そうとしました。今日のワークショップは音楽の要素について考え、これを操作し、構造的に捉えるためのひとつのモデルになると思います。
ワークショップ実施前は半分の学生がトーンクラスタについて知りませんでした。また、③ の試演段階では全体的に戸惑いがありましたが、すぐに内容を理解し、音楽の形にすることができたのは流石でした。それぞれの音群のユニットに対して、どのようなキャラクターを持たせると面白くなるのかについて各人が工夫し、さらにそれをリーダーが上手くまとめてくれました。BグループにいたKくんは理論的に音楽を考えるのが得意なので、 ⑤の時に、どのように三味線を弾けば効果的かについて提言があり、それが結果に活かされた点が良かったです。
写真1(微分音調絃)
写真2(試演のためのワークシート)
写真3(Bグループの演奏ワークシート)
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