2017年10月12日 (木)

扇風機による音探し、音楽づくり ~尺八と扇風機で「鹿之遠音」〜

■実施日:2017年10月11日 

■担当:山口賢治 

■ゲスト:山本和智(作曲家)

■テーマ:扇風機による音探し、音楽づくり 〜尺八と扇風機で《鹿之遠音》〜

■想定対象者

演奏家、作曲家やそれを目指す人。もしくは実験的、先鋭的な試みに興味がある者。

 

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■実施のねらい

 1931年フランス生まれのアメリカ人作曲家Edgard Varèseが西洋音楽史上初のパーカッション・アンサ ンブル曲とされるイオニザシオンにおいて打楽器に加えてサイレン音を楽曲に取り入れた。また1940年代 からPierre Schaefferらにより音響・録音技術を活用し、人工音や自然界から発せられる音などを録音、加 工し、再構成して作品化するミュージックコンクレート(具体音楽)が生み出されるようになった。 通常、音楽は声や楽器から発せられる音(楽音)によって音楽が組み立てられているが、楽器以外の物体 から発する音や環境音、機械音などの噪音を音素材とする音楽が生み出されるようになった。現在はテクノ ロジーの発展により容易にサンプリングによって様々な音素材を音楽の中に組み込むことができる。

 こうした具体音楽の歴史を紐解けば、古くはベートーヴェン 作曲「ウェリントンの勝利」(1813年)や チャイコフスキーの序曲「1812年」(1880年)では式典楽曲として大砲や小銃が使われ、エリック・サティ 作曲のバレエ音楽「パラード」(1917年)ではピストルやラジオノイズ、タイプライターなどから発せられる音が楽曲中で使用されている。

 一方、日本の伝統音楽では、とりわけ尺八音楽の中でムラ息やカザ息のノイズ音等の非整数次倍音を含む音が積極的に音楽表現に取り入れられいる。尺八では一音成仏という言葉があり、たったひとつの音にも宇宙が存在するとされる思想があり、これは音楽を構成する一つの音自体に多くの情報量が含まれることを意味している。そのような性質を有する尺八と具体音楽にはある種の共通点や親和性があると思われる。

 今回は具体音楽を導入にして、山本和智 作曲「翦断/歪」〜Violist & Percussionistのための〜を手掛かりに、風を起し、叩いたり擦るなど方法で様々な音色が得られる発音素材として扇風機を用いて、音探しから音楽づくり、そして尺八との合奏試演を試みた。このワークショップを通じて、楽音、噪音、自然音、人工音など様々なカテゴリーに分類される音や音響と音楽の関係を考える切っ掛けを与えることが本ワークショップの狙いであった。

 

■実施プログラム

①具体音楽の説明と参考音源を鑑賞した。

 【参考音源】

  エリック・サティ 作曲 「パラード」

  エドガー・ヴァレーズ 作曲「イオニゼーション」

  ピエール・シェフェール 作曲「Études de bruits 」

 

②山本和智 作曲「翦断/歪」〜Violist & Percussionistのための〜を鑑賞と作曲家による作品解説をして頂いた。扇風機からどのようにして様々な音を探し出し、その音がどのように記譜され、ヴィオラとの二重奏に結実したについて作品成立までの試行や思考過程についてお話し頂いた。

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奏法解説は下記

souhoukaisetsu.pdfをダウンロード

 

③扇風機演奏法の実演および受講学生達による扇風機による音づくりを行った。

 

④尺八音楽における音の特性と尺八古典音楽の代表である「鹿之遠音」の曲構成(2本の尺八の応答形式)の解説を行った。

 

⑤「鹿之遠音」を参考に扇風機と尺八で演奏を試みた。

 

⑥演奏家にとって音に対する向かい合い方について考えてもらった。


YouTube: 扇風機による音楽づくり 〜尺八と扇風機の為の《鹿之遠音》〜

■授業を振り返って

 音探しの題材が扇風機なので、ワークショップ受講者や後にワークショップ動画を見た人達からの反応は大きく二分された。とても面白く興味を持ってくれた人達がいた反面、まったく興味を示さなかったり拒否反応を示す人もおり、受講者や実施場所を選ぶワークショップテーマであった。しかしながら、今回は受講学生全員が具体音楽についての知識がなかったので、少なくとも具体音楽の概念を知る意味では、皆にとって意義ある授業になったと思われる。

 以前の授業で音や音響と音楽の違いについて考えたことがあった。少し視点を変え、世の中に存在する音について”音楽の音”と”音楽でない音”の曖昧な境界線をどのように捉えるかについて問題意識を持ってもらえたとすれば本ワークショップは成功である。その意味で、このプログラムは音楽に対する概念を広げるワークショプの一つに位置付けられるように思われる。

 今回はまったく初めての試みであった。尺八との扇風機の二重奏について、時間の制約や学生の躊躇いにより、充分な試行錯誤ができなかったため満足な演奏結果には至らなかった。しかし何度かの練習機会と適切なアンプリファイが得られれば、面白い音楽が産み出せそうな感触を得ることができた。

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