1月8日は今年度最後の邦楽ワークショップで、作曲家 清水一徹 氏を迎えての授業を行いました。
清水一徹(しみず いってつ)
76年横浜生まれ。
1998年日本現代音楽協会作曲新人賞入選
1999年日本音楽コンクール作曲部門入選
2001年日本作曲家協議会作曲賞入選
2002年ルクセンブルグ国際作曲賞第1位入賞、作品がCDリリースされる
2005年、武生作曲賞入選
作曲を故 三界正実、藤井喬梓、久木山直の三氏に師事。日本作曲家協議会会員。
今年度の最後の授業でした。しかし今年度の授業を振り返りまとめるのではなく、来年度以降に向けて今後のワークショップ活動や授業のあり方の新しい方向性を見いだすことを意図して、ゲスト講師を招きました。
今回のワークショップの題材は 清水一徹 氏の作品で尺八と当鉦の二重奏曲「レスタウロ」(restauro)をもとに音楽づくりを行いました。
レスタウロとはイタリアにおける都市と建築の保存・再生の実践的手法を示します。古いものの保存や修復という意味に加え、これから創造的に活用していくという意味も含んでいます。教会などの歴史的建造物の保存・修復はもちろん、1980年代以降には、富裕層が古い建物を見事に再生し、そこに住まうというライフスタイルが登場し、建築家たちはレスタウロのデザインの分野で力を発揮しました。歴史的遺産に新しい息吹を与えるレスタウロはイタリア独自に根付く文化となっています。
このレスタウロのコンセプトを日本の伝統楽器に当てはめ、創造的に活用していくことを念頭に書かれた作品が今回ワークショップの題材とした尺八と当鉦のための二重奏曲「レスタウロ」です。尺八と当鉦は共に日本の伝統音楽で使われる楽器であり、かつ構造がシンプルで基本的な機構が昔から変わっておらず、音楽的レスタウロの対象として適する楽器との作曲者の判断が根拠にあるとのことです。
この作品ではたった一つの当鉦を様々な手法を使って、多様な音色を引き出すことに力点が置かれ、これとやはり多様な音色を有する尺八との絡みによって曲が進んで行きます。作品の中で行われている当鉦の(特殊)技法を参考に、学生に当鉦から様々な音を探り、新しい響きを発見してもらい、得られた音素材を音楽へと組み立ててもらいました。
作曲家による自作品を題材とした音楽づくりを行った場合、
1、作曲者による作品の解説(作品のコンセプト、構造や手法など)
2、作品の鑑賞(生演奏の場合は演奏家の視点による作品に対する言及)
3、作品のコンセプトや方法論を元にした音楽創作
の流れが基本と考えられます。このようなワークショップは、より深く作品の構造を理解し、音楽鑑賞力を上げるのに役立つので、今後、他の多くの作曲家にも自作品を題材とした音楽づくりワークショップの実施が望まれます。一般的に難解な印象を持たれる現代音楽への理解と普及に繋がる具体的かつ有益な活動のひとつになります。
また、対象となる教材や題材を正に”レスタウロ”するための試行錯誤の方法論として、音楽づくりワークショップのあり方を考えることの必要性にも気づかされました。
来年度はこのことも念頭に置き、活動研究を進めたいと思います。
担当:山口賢治