10月2日の邦楽ワークショップロックコースの学生2名による当鉦を使ったワークショップでした。
【学生からの実施報告】
■テーマ
音の強弱(※1ベロシティ)と音価について 音楽の表現力
■実施目的
音楽の表現力 音楽を作るにおいて「音程」以外に重要なこととは何かを(再)確認する。
■用意する楽器や人員
音楽をより楽しみたいと思っている中高生~大人の方まで(音楽家を除く)10名~
■実施プログラム
1、『アイスブレイクver1』
『4/4拍子1小節を8分音譜全ての手拍子によって発音する』というアイスブレイクを実施した。
2、『アイスブレイクver2』
手拍子の条件はver1に引き続き、一人一人フレーズを決め1人2人3人構成の3グループに分け、音の重なり、人数による音量変化を体感して頂くことが目的のアイスブレイクを行った。
3、『アイスブレイクver3』
アイスブレイクver2の条件を一部変更し、強弱をつけることによる表現に加え、音を出さない(8分休符)を取り入れ、8分音符全てを発音するという条件を外したアイスブレイクを行った。
グループ分けについては人員の組み替えは行ったがグループごとの構成人数に変更は無し。
休符を作ること、フレーズとしての表現に音価の意識を加えて感じてもらうことを目的とした。
4、『2グループに分かれて邦楽器、打楽器を用いて即興演奏、及び発表』
参加メンバーを2グループに分け、強弱、音価を表現した図形楽譜の用紙を配布。メンバーで話し合い譜面を完成させてもらい、その譜面に基づいた演奏をチャンチキという楽器を用いて発表した。
アイスブレイクでの強弱、音価の表現を音楽に活用することが目的とした。
■ワークショップを振り返って
本日は初めての体験で思った様にいかない場面や楽器の違いによる制限等、なかなか苦しいながらに、なんとか無理矢理まとめさせて頂きました。ワークショップの構成のコツなど個人的に発見もあり、未完成なりに充実した機械となり、とても楽しかったです。
私はRock&Popsコースでベースを専攻としていて、電気を必要とする楽器によって作り出される商業音楽のほぼ全てはデジタル録音をされた物です。その商業音楽を録音する過程では、Digital Audio Workstation通称DAW(ダウ)と呼ばれるソフトウェア上で録音したオーディオデータを編集します。編集とは?というと、楽曲を作成するにあたり、参加している各楽器の音は別々のデータとして録音されDAW上では波形として表示され、その波形を楽器ごと僅かに時間軸をずらす事によって、例としてはズレてしまった全体の音の出だしをそろえる事などができます。
実際そのような編集をすることは少ないのですが、この表示されている波形を見て私はたったの1/100秒音を出す瞬間、音を切る瞬間を間違えるだけで、聞こえてくるフレーズの印象はがらっと変わってしまうことに気づきました。
音の強弱も然り、歌がしっとりと歌い上げているバックで歌のフレーズを邪魔するような音量で音を出して良いでしょうか?もちろん良いこともあるでしょう。しかし、そういう一音一音に対する気遣いこそが音楽の表現力を上げると言うことを理解して頂くことが、このワークショップの狙いでした。
「スタカートは書かれている音符の半分の長さで」と小学校では(私自身が小学生の頃は)説明されましたが、四分音符にスタカートの場合、なぜ八分音符で書かないのか?などといった素朴な疑問からはじまり、音源と自分の演奏を聴き比べ、どうして同じ譜面なのに違って聞こえるのかを考えたり、音そのものに対する意識をより繊細にするきっかけととなればと思っています。
※1 ベロシティとは
―――Velocity 英【名詞】a velocity 速さ 速力
音楽用語では、電子楽器の演奏情報のやり取りに使用される(※2)MIDI規格において、音の強弱を表す数値。0~127の128段階を有している。
※2 MIDIとは
―――MIDI 英 Musical Instrument Digital Interface の略称。
YouTube: 音の強弱、長さ、タイミングの変化による音楽表現
【担当教員からのコメント】
学生自身が普段研究活動の中で感じている問題意識から出たテーマでユニークな視点でのワークショップだったと思いました。特にワークショップの最後に持参したノートパソコンによる打ち込み音源デモを使った説明はとても興味深かったです。『音のタッチやフォルム』と『それらによって形成されるフレーズの表現、表情』との関係をパソコン画面と音の組合せでとてもわかりやすく解説してくれました。音楽の表現に関わる根本的で高度な内容に踏み込んだ試みであると評価できます。
しかし、残念ながらこれらの伝えたい内容と実施したアイスブレイクから創作発表までの流れが、あまりかみ合っていませんでした。打ち込み音源の音の加工の仕方で機械的な音楽の表情から徐々にニュアンスが付き、人の演奏の感じに近づく過程を示しながら、それに沿ったアイスブレクプログラムを考える必要があります。
三味線、箏、琵琶など邦楽器には撥弦楽器が多く、例えば箏合奏のアンサンブルの場合、音のタッチ(爪の角度、弾く強さ、力の入れ方抜き方、爪を当てる絃の位置などによる音の立ち上げ方)を意識して揃えることは箏奏者が苦労することろであり、重要な研究課題のひとつです。箏や三味線を専門としない人達にも、そのような極めて繊細な問題意識を知ってもらい体験できるようにするために、容易に発音が可能で、かつ適当な響きの持続時間が確保出来る楽器として当鉦を選びました。
プログラムの見直しを行えば、意義ある内容のワークショップになると思われます。 担当:山口賢治
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