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2017年9月 3日 (日)

講師紹介① 高田正人(テノール)

2017年から講師になった高田正人です。どうぞよろしくお願いします。

このブログに講師たちが普段思っていることを書いていこうというリレー企画が提案されまして、トップバッターとして僕から書いていこうと思います!

これからこのブログにも、時々顔を出すことになると思いますのでどうぞよろしくお願い致しますhappy01

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自己紹介がてらに何か書こうと思います…が、はてさて、、(笑)

ちょっと固い話になりますが… 洗足学園音楽大学に就任して以来この5ヶ月、自分がこの学校でできることは何だろうと考えてきました。

僕のこれまでの歌い手人生の経験で一番人と違っているのはきっと、イタリアとニューヨークの双方に留学経験がある、ということでしょう。

今の時代は多くの人が簡単に留学するようになったので、留学経験があるというのは特に珍しくはありませんが、ヨーロッパとアメリカという、全くタイプの異なる国に両方留学している人は少ないと思います。

イタリアではピアチェンツァ国立音楽院に2年通い、ニューヨークではメトロポリタン歌劇場のコーチとジュリアード音楽院の先生に教えを受けました。

そこで感じたヨーロッパとアメリカの音楽教育の違い、オペラの在り方の違い、というものに大きな刺激を受けたし、それ以降はその2つのフィルターを通してオペラの世界を見るようになりました。ので今日はその違いの話を。

イタリアではオペラは伝統芸能です。そして自分の国で生まれたお家芸です。その中でのオペラ歌手というのは「職人」に近いように思います。修業時代には良い声を出すためにどうしたらよいかを徹底して学びます。

まずはVocalizzo(発声練習)です。これに非常に時間をかける。先生によっては1年以上発声しかやらない先生もいる。声の準備ができるまではオペラアリアなんて歌わせてもらえません。

先生の家に住み込みのようにして毎日のようにレッスンを受ける人もいます。

それってちょっと日本の職人の徒弟制度に似ていると思いませんか?

先生の教え方も手を変え品を変え、という訳ではなく、一つのことを毎日じっくり、という感じ。少しでも声がずれたらやり直しです。地味か派手かで言えばかなり地味(笑)

でもそこから美しい声が生まれる。

イタリアにはベルカントという「正しい声」が伝統的にずっと存在していてそれを体現することが大事なのです。聴衆もそれを求めている。そしてその頂点にミラノのスカラ座があります。

イタリアで求められているのは「徹底的に磨かれた声の魅力」です。

一方でニューヨークではオペラは舞台芸術であると同時にエンターテインメントであります。もちろん芸術であることに変わりはありませんが、それは最高の娯楽であり珠玉のエンターテインメントでもあるのです。そこに人が集まる。

ということは、オペラ歌手になるという事は最高の舞台パフォーマー・エンターテイナーになる事を意味します。

その為にはもちろん歌が歌えなくてはいけませんが、それ以外にも舞台人としての立ち居振る舞い、芝居、容姿、自分をどう「魅せるか」ということが必要で、それを徹底して磨きます。

例えばコンサートで舞台の袖から出てピアノのところまで歩く、その歩き方、間の取り方、前奏の引き出し方、そんなことも勉強します。声を出す前の話です。

それだけではありません、どうやってファンを増やすか、どうやったら仕事がもらえるか、を学生のうちから考えます。

学校では魅力的な履歴書作り(ニューヨークらしい!)の指南もあるし、学生のうちからメトロポリタン歌劇場のロビーで富裕層のおじさんに名刺を渡し、「今度ジュリアードでコンサートがあるから来てください」なんて売り込みをしたりもします。凄くないですか?日本でそんなことやっている音大生が何人いるでしょうか?(お国柄ももちろんありますが…)

一言でいえば…

自分を魅力ある商品にしていくこと

これが僕がニューヨークで感じた音楽学校でのオペラ歌手教育です。その人たちが創る舞台をワクワクしながら観客は見に来る。そしてその頂点にメトロポリタン歌劇場が立っているのです。

ニューヨークで求められているのは「徹底的に磨かれたエンターテインメント」です。

では日本はどうなのでしょう。どちらの国に近い教育をしていて、どちらの国に近い舞台を作っているのでしょう。

僕は芸大の時に「とにかく良い声を出すことだよ。歌手の声は美味しい蜜と一緒だからね。良い声が出ればいろいろな蝶(観客)が自然と集まってくるんだ。」と先生に言われました。

これはイタリア的な考え方ですよね。

これはこれで素晴らしいことだと思います。日本人は職人気質ですから、一つのことをコツコツやるのにも向いている気がする。

しかしです、観に来る人々はどうでしょう。

オペラは日本で生まれたものではありません。歌舞伎のようなお家芸ではないのです。

そうすると見に来る人は「海外で生まれたものを楽しみに来る」、というワンクッションある物の見方をします。そこには娯楽性を求めてやってくる人もたくさんいます。エンターテインメント性を求めている人も大勢います。もちろん大前提として良い声を楽しみたい。でも同じくらいお話やお芝居やビジュアルも楽しみたい。それが日本の観客だと思うのです。

ということはちょっとアメリカ的エンターテイメントな部分も求められているという事です。

それを最近の作り手も分かっているから、最近は昔よりも声以外の部分も考慮してキャストを選ぶ。お芝居ができる人、動ける人、容姿が役に合っている人。

それを早いうちから分かっていないとこの世界でこれから生きていくのは大変でしょう。

大学ではイタリア的に勉強してきたのに、舞台の作り手や観に来る方はアメリカ的、だと少なからず不幸な齟齬が出てきます。それは日本だけの話ではありませんが。

良い声を磨くことはもちろん必要です。しかしそれにプラスアルファで、もう少しお芝居を始め総合的に自分を魅せる力や人間力も大学のうちから学んでいかないとこれからの時代は大変だと思うのです。この視点を持っている教育機関は意外と少ない。

これまでこういう部分は個人に任されていました。気づいてる者だけが気づき、センスある者だけが残って来た。でもそれは歌を教えるように、学校機関でもまた教えられる事です。

洗足学園声楽コースのキーワードは「伝統と革新」。この言葉はまさに今書いてきたようなことにピタリと合致すると思います。

日本という国は「職人的なものを評価する気質」と「エンターテインメントを求める気質」が混じり合った国です。

その中でイタリア式とアメリカ式の良いところ取って、日本人の強みを生かしてしなやかに力強く世界や舞台に出て行けるような歌い手になる。伝統と革新。そのお手伝いをするのが我々の役目かなと思っています。

洗足の学生たちはその素地を十分に持っていると思います。

えーと、、最初から少し固い話題だったでしょうか…。そしてツイッター世代には文章が長すぎたでしょうか…(笑)

でも常々考えてきた「今のオペラ界とそれに求められている教育」ということだったので最初に書いておきたかったのです。すみません(笑)

きっと次の先生が面白い話を書いてくれると思います!バトンを渡しますー。

次は…鵜木先生かな?よろしくー(笑)papersun

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