2014年6月

2014年6月26日 (木)

■実施日:6月25日  ■担当:山口賢治

■テーマ:移調の限られた旋法 第2番による音楽づくり

■狙い:前回(6月18日)の授業で行った試み

https://blog.senzoku.ac.jp/hougaku/2014/06/post-1000.html

の続きとして移調の限られた旋法 第2番(D E♭ F F♯ G♯ A B C D)をもとに箏群の調絃を変形して音楽づくりを試みた。この旋法を分解抽出して、以下の四つの五音音階をつくりそれぞれ1面づつの箏に振り分けを行った。

 

A1(C D F♯ G♯ B C)

A2(F♯ G♯ C D F F♯)

B1(E♭ F A B D E♭)

B2(A B  E♭ F  G♯ A)

 

①A1の旋法を短3度づつ移調してA2、B1、B2の旋法が得られる。

②A1とA2は移調の限られた旋法 第1番のC D E F♯ G♯ B♭と四つ音で共通音

 B1とB2は移調の限られた旋法 第1番のE♭ F G A B C♯と四つ音で共通音

④A1、A2、B1、B2全ての音を合成すると旋法 第2番(D E♭ F F♯ G♯ A B C D)

 になる。

 

箏について旋法 第2番の構成音を用いつつ、旋法 第1番に近い響きを抽出しやすく工夫し、十七絃、キーボード、管楽器は旋法 第2番のままとして実験を行った。

 

■実施プログラム

①前回の授業の復習と今回の授業の狙いの説明をした。

②演奏の構成の参考として一柳慧 作曲「襞」(ヴァイオリンと十七絃の二重奏曲)を

 鑑賞した。これを参考にペアを組み下記の構成で音楽づくりを行った。

   Aブロック…二つの楽器のぶつかり合い対峙する。

   Bブロック…一方の楽器が上行するパターン音形を奏し、これを背景にアドリブ

        独奏を行う。

   Cブロック…パターン音形の演奏とアドリブ独奏を入れ替える。

   Dブロック…コーダ

③全員で上行するパターン音形を背景にふたりづつアドリブを回す。

④箏がオトシの音形を基盤に和音をつくり、十七絃、キーボード、管楽器で旋律を

 絡め合わせた。

移調の限られた旋法 第2番による音楽づくり その2
YouTube: 移調の限られた旋法 第2番による音楽づくり その2

■考察と反省

旋法 第2番の構成音から全音音階的な響きの分離を意図したが、明瞭な響きが得られにくく、また分割した旋法から紡ぎだした旋律も明確ではなかった。この問題を解決するために途中で下記の調絃替え

A1(C D F♯ G♯ B C)⇆(C D F♯ G♯ B♭ C)

A2(F♯ G♯ C D F F♯)⇆(F♯ G♯ C D E F♯)

B1(E♭ F A B D E♭)⇆(E♭ F A B C♯ E♭)

B2(A B  E♭ F  G♯ A)⇆(A B  E♭ F  G A)

を行うことが考えられる。今回は試せなかったので今後の検討課題である。

■まとめ

今回たまたま居合わせた現代邦楽研究所研究生に参加してもらい、試演を聴いてもらったり一緒に演奏に加わってもらった。一人でも外部の目が入ると良い意味で緊張感が出た。

今期の課題のひとつに邦楽器と洋楽器(専攻楽器)の混成による音楽づくりがある。邦楽、洋楽どちらかの音楽様式に偏らせた場合、つくられる音楽に不自然さ、違和感や陳腐さが表出される危惧があるので、慎重さが求められる。移調の限られた旋法による音楽づくりの場合は、洋楽(伝統的なクラシック音楽)とも日本の伝統音楽の要素とも異なるので、互いの音楽の伝統や様式から等距離にあると方法論であると言える。双方を融合させる音楽づくりの手法として移調の限られた旋法 第2番は有力であること思われる。

2014年6月18日 (水)

■実施日:6月18日

■担当:山口賢治

■テーマ:移調の限られた旋法 第2番による音楽づくり

■狙い:移調の限られた旋法 第1番である全音音階による音楽づくりは過去に実例がある。今回は第2番の旋法を用いて音楽づくりを行った。3回転調すると元に戻る第2番の旋法の中でD E♭ F F♯ G♯ A B C Dを選び箏の調絃を行った。理由は尺八の一尺八寸管の筒音Dが中心的な音に当たるため、この調を採用した。

全音音階の場合、旋法上の隣り合う音の間隔がすべて同じ全音なので、旋律を即興で奏でてもフレーズの終止感がはっきりしないことが特徴であるが、第2番は例えばD F G♯ Bを一応のフレーズの納め先の音と定めることが出来る。また旋法上の構成音を使って即興で和音を作る場合、第1番[D(♯5)/D7(♯5)など]に比べて多彩な和音[D D7 Dm Dm7 Cm(♭5)  Cdim   Cm(♭5)M7など]が拾えることが利点であることを利用した。

 

■実施プログラム

①前回のオトシの音形の復習をした。

”オトシ”の音形で音楽づくり

 

②前回の応用として箏を使ってオトシの積み重ねによる音楽づくりを試みた。

 目的:この後の音楽づくりの活用材料にするため

 

③移調の限られた旋法 第2番についての説明した。

 作品例「セリオーソ」浦田健次郎 作曲を鑑賞。

 ※ 2008年度全日本吹奏楽コンクール課題曲

2008年度課題曲III.セリオーソ*クリニック*
YouTube: 2008年度課題曲III.セリオーソ*クリニック*

 

④箏で任意の和音を繋げて奏した。

 目的:第2番の旋法の構成音によってつくられる響きを知ってもらう。

 

⑤ ④の響きを背景にクラリネットで即興のメロディーを載せた。この後、グループに分かれて様々なヴァリエーションの音楽づくりを試みた。下記動画参照。

移調の限られた旋法 第2番による即興
YouTube: 移調の限られた旋法 第2番による即興

 

■考察

2回転調可能な第1番旋法(C  D  E  F♯  G♯  B♭)(C♯ D♯  F  G  A  B)の内、それぞれ四つの音(赤文字)が第2番旋法の中の構成音(D E♭ F F♯ G♯ A B C D)に含まれている。従って箏の場合に押し手や柱を動かすことによって第2番旋法の調絃で第1番旋法の両方の調の演奏も可能である。今回の授業では箏専攻の学生がいないため出来なかったが、今後の課題として第1番旋法と第2番旋法を切り替えて演奏することが考えられる。移調の限られた旋法には全部で7番まであるが、3番以後は隣接する音程が2回以上続けて半音となる箇所があるので、箏の場合を考えると余韻が著しく濁ってしまい、扱いが難しいと思われる。

 

■まとめ

今回の授業ではクラリネットの学生の活躍が重要な要素となった。滞りなく即興でメロディーを奏でられる人が一人でもいると、作られる音楽の質が劇的に向上することが明らかになった。また複数の奏者が同時にメロディーを即興演奏しても違和感がなかった。

音楽的レベルの高い人はメロディーを即興し、高くない人は任意の和音を演奏することでアンサンブルに参加できるので、様々な音楽レベルの人が一緒に演奏可能な方法として活用が期待できる。初めのうちは、移調の限られた旋法 第2番の音響に戸惑いを持っていた学生もいたが、演奏を重ねるうちに感覚を捉まえてくれたことは流石であった。

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2014年6月11日 (水)

【実施日】2014年6月11日 【担当】山口賢治

【主旨】

日本の伝統音楽において(特に江戸の近世邦楽において)聞かれるオトシの音形は日本人にとても馴染み深い。その音形は歌舞伎の中や尺八音楽、山田流箏曲の中だけでなく日本人作曲家の芸術音楽の中にも見いだせる。日本の伝統音楽では1拍自体が伸縮する音楽とされ、オトシの音形は連打の各拍が順次縮まり、切迫した音空間をつくる。 このオトシの音形を手がかりに音楽づくりを行った。

【用意するもの】

拍子木、木魚など、細かい刻みが容易に演奏出来る打楽器。

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【実施したプログラム】

① ”オトシ”の音形の説明と参考映像を見た。

歌舞伎の幕開きの拍子木、山田流箏曲「竹生島」、尺八本曲「鹿の遠音」

 

② 手拍子で”オトシ”の音形による音楽づくりを行った。

a 全員一緒。

b 1人→2人→3人と重ねる。

c ペアで掛合形式。

d 順次重ねる。ランダムに重ねる。 等

 

③ 現代邦楽や日本人作曲家の作品で扱われている”オトシ”の音形の使用例を鑑賞した。

「第3風動」杵屋正邦 作曲

「饗宴」黛敏郎 作曲

「祝典序曲」三善晃 作曲

「クロノプラスティックII」湯浅譲二 作曲

「箏とオーケストラのためのENGEN」一柳慧 作曲

 

④ 打楽器や声を使って②を試した。

オトシの音形
YouTube: オトシの音形

【まとめ】 日本人に馴染み深く、誰でも普通にできる音形であり、欧米人にとっては拍自体を凝縮していく音楽概念が元来ないので”オトシ”の音形を叩くことに苦労するとの説がある。日本のリズムの概念を知り体験する良い題材であり小学生から老人まで幅広く活用出来ると思われる。この題材をもとにしたワークショップから近世江戸の音楽の鑑賞に結びつけるプログラムも可能であろう。実施プログラム④ではバリエーションを広げるために様々な種類の打楽器を用意したが、音階がプリセットされた楽器の場合は音程の選択に工夫をする必要があると思われる。

2014年6月 4日 (水)

6月4日は吉原による、「春の海」を題材に応答性を重視したワークショップでした。

教育実習などで参加者が4人しかいなくてさびしかったですが、たくさん楽器を使っておしゃべりすることができました。

内容は以下です。

1、箏吉原、尺八山口による「春の海」鑑賞

あらゆるところで応答していることを確認してもらう。

 

2、春の海の冒頭や、簡単で聴きなれているフレーズを部分的に練習し、そのパッセージを使って対話してみる。

 

3.海をイメージした新しい奏法を考えてもらい、春の海のドローンの上で対話(無拍)

 

4、3拍子の春の海のパターンの上で対話

 

5、箏のみで音楽づくり

約束:いつも春の海のドローン(E,G,A)がなっていること

   :対話をたくさん取り入れること

調弦 E,G,A,B♭,D,E,G,A,B♭,D,E,G,A、(実際の春の海の調弦から完全4度上)

「春の海」によるお筝でおしゃぺり
YouTube: 「春の海」によるお筝でおしゃぺり

6、同じ約束でいろいろな楽器を取り入れて音楽づくり

「春の海」によるお筝でおしゃぺり
YouTube: 「春の海」によるお筝でおしゃぺり

授業を終えて

箏のみの作品では、5拍子にチャレンジしてくれて、なかなか苦戦していましたがたくさんの技を出し合ってたくさんおしゃべりできました。

色々な楽器を加えての作品では、さらにヒートアップして鍵盤ピアノの素敵なドローンや、箏に鐘をはさんだり、すのこ?をかぶせたりとプリペアード箏を披露してくれたり、複数の楽器を自由に使って生き生きとした対話がもりこまれた作品ができました。

春の海のモチーフはあまり使われなかったが、調弦が春の海だったので、穏やかでのどかな対話の音楽ができました。箏の技術も随分ついてきましたが、もっとしっかり音が出るとさらに良かったので、これからも技術的指導も重視したいと思います。

以上。

5月21日は吉原による「ジャズにチャレンジ」のワークショップでした。

ちょうど尺八奏者でジャズが堪能な細山さんがいらしてくださったのでワークショップの発表に飛び入り参加していただき、作品を盛り上げていただきました。

内容は以下です。

授業担当 吉原佐知子 記

 

1、ドリア旋法で演奏されている、マイルス・デイビスの「So What」を鑑賞

2、ドリア旋法に調弦した箏で、「So What」のモチーフを使って,練習&音楽づくりをしてみる

 

5/21 邦楽ワークショップ So Whatをもとに
YouTube: 5/21 邦楽ワークショップ So Whatをもとに

3、Dドリアン、Cドリアンの2つの調弦の紹介とベース音を紹介し、音楽づくり。

Dドリアン調弦 D,E,F,G,A,B,C,D,E,F,G,A,B ベース音 D,A,C,E

Cドリアン調弦 C,D,E♭,F,G,A,B♭,C,D,E♭,F,G,A   ベース音 C,G,B♭,D

 

4、上記の2つの調性を自由に使いこなしつつ、尺八奏者2人にも加わっていただき、作品発表。

5/21 邦楽ワークショップ jazz
YouTube: 5/21 邦楽ワークショップ jazz

授業を終えて

最初の練習ではたどたどしい感じでしたが、最後のころはしっかりした音も出てきました。

最後の発表の17絃のベースは17絃を初めて弾く学生でしたが、一生懸命取り組んでくれて、みんなを盛り上げてくれました、ジャズはベースが大事だと改めて思い知りました。

調弦を2種類使うことですぐに調性がかえられ、容易に雰囲気がかえられたことで、敬遠しがちだったジャズも楽しく体験することができました。

生徒たちもクラシック音楽の学生ばかりでジャズに親しんだことがなかったらしいのですが、意外に簡単にできて楽しかったと言っていました。

自分としてもジャズは得意分野ではなく、まだ研究不足なこともありましたので、今後もさらに見識を深めていきたいと思います。

 

 以上。